【桜島観測報告・更新】2015年8月15日マ・・・

【桜島観測報告】2015年8月15日マグマ貫入イベントについて

  • はじめに

2015年8月15日午前7時頃から桜島南岳直下を震源とする火山性地震が急増し,傾斜計や伸縮計でも山体の膨張を示唆する急激な地盤変動が観測されました.これを受けて気象庁は,同日10時15分に桜島の噴火警戒レベルを4(避難準備)に引き上げました.対象地域は昭和火口および南岳山頂火口から3km以内です.

  • 噴火活動と地震活動について

GMonthly67図1.1967年〜2015年8月15日までの月別地震・爆発回数.

桜島火山の現在の活動状況を過去の活動と比較して示したものです.今回の活動の特徴は,A型地震が極めて活発化したことが挙げられます.このような活発化は過去30年以上見られなかった現象です。図1は,過去48年間の月別地震・爆発回数を示し,A型地震が月50回以上発生したのは1968年以来となります.そこで,参考となる1968年と比較します.

※A型地震とは,火山構造性地震とよび,マグマが貫入した際に周囲の岩盤に働く応力が急激に変化したために既存の小断層がずれるため発生する現象.

G196805図2.1968年5月29日群発地震前後の日別地震回数と日別爆発回数.

1968年の地震活動の時間経過を詳細に示しますと(図2)と,1968年5月29日に始まったA型地震の活発化は,2週間程度でほぼ収束しました.しかし,活動が開始して1週間後に一時的に地震数が増加するなど,必ずしも単純な減衰を示した訳ではありません.

【コメント1】1968年5月29日午前2時過ぎから黒神町を中心として有感地震が頻発し始め,その一部は黒神で震度4,鹿児島市街地でも震度2でした.今回の地震活動での最大震度は桜島赤水新島で震度2,桜島藤野で震度1でした.

【コメント2】1968年の群発地震のあとA型地震は発生頻度は低下したとはいえ,半年以上経過しても群発地震発生前の発生頻度のレベルには戻ってませんでした.

予知連用.xls図3.桜島における火山性地震の日別発生回数と月別降下火山灰量(2015年8月19日まで)

図3は,今回の活動前の変化に注目して,火山灰量および地震回数を示したものですが,7月上旬頃から爆発地震やB型地震の回数が低調になっていたことがわかります.

※爆発地震:爆発的噴火(当所では火口から3km離れた場所で空気振動最大振幅が10Pa以上)に伴う地震.
※B型地震:火山性低周波地震の一種.低周波地震は卓越周波数が1〜6Hzの地震を指し,B型地震は低周波地震の中でも震源が浅い(せいぜい2kmの深さ)のものを指す.

震源分布0815

図4.A型地震の震源分布(2015年8月15日〜8月18日)と地震のP波初動の押し引き分布.

図4は,今回の活動におけるA型地震の震源分布とP波初動の押し引き分布を示したものです.震源は,南岳山頂および昭和火口の周辺直下の深さ1〜4kmに位置しています.図5(上)は桜島直下の地震の震央を示します.2015年3月31日に桜島南西部(東桜島)にて有感地震が起こりました.この地震の深さは8km程度と深いです.

震央分布1997-2015S 震源分布1997~2015

図5.1997年〜2015年8月19日の地震活動.(上)桜島周辺の震央分布.(下)桜島および姶良カルデラ周辺の震源分布.

  •  地盤変動について

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図6.GNSSによる変動ベクトル(2015年8月14日と8月16日の差).桜島火山観測所(SVOG)に対する相対変位を示す.

8月14日から16日までの変化を,ベクトルで表したものが図6です.桜島の北西部で北西向き,桜島の東部で東向き,桜島の南部で南向きの水平変位が見られ,山体が膨張する地盤変動を示していることがわかります.その一方で,北東部と南西部の観測点では変動が小さく,変動パターンが山頂に対して非対称であることが特徴的です.

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図7.(上)桜島東西(SVOG-KURG)の基線長変化とハルタ山観測坑道における地盤変動.(中)月毎A型地震数(下)月毎噴火回数と火山灰放出量.

HarEX5(2)図8.図7と同じ.ただし縦軸スケールを変更した.上図右側に今回の変動がある.変動値は横矢印頭部にて示す.

図7と図8は、最近9年間の地盤変動とA型地震回数、爆発及び火山灰放出量を比較したものです。山体の膨張を示唆する地盤変動と爆発及び火山灰放出量の増加は、ほぼ同期していることがわかります。今年1月からの山体の膨張を示唆する地盤変動は6月頃に停止しました.また膨張と同時期に火山灰放出量が増加しました.ところが,7月・8月は噴火回数,火山灰量ともに少ない状態でした.傾斜と伸縮計の記録の右端の縦の線に見える部分が,8月15日の変動を示しています.この変動は,急激かつこれまでの変動量より10倍以上大きいことがわかります.

150815-150820.erg.FFP図9.2015年8月15日〜8月19日の地震エネルギー(上)と地盤変動(中・下).(上)灰棒:時間当たりの地震エネルギー,赤線:積算地震エネルギー.(中)ハルタ山観測坑道.(下)有村観測坑道.黄:傾斜火口方向,青:傾斜直交方向,赤:伸縮計火口方向,黒:伸縮計直交方向,緑:伸縮計斜交方向.

図9は,今回の活動の地震エネルギーと傾斜計及び伸縮計による地盤変動の時間経過を示したもので,地震エネルギーの放出量から,主要な地震活動は活動が開始した15日午前7時頃よりの18時間に集中していたことがわかります.山体の膨張を示す変動は,15日の午前8時40分頃に急加速しそして減速し,そして再度午前10時26分から急加速そして減速しました.その後,8月16日の正午頃には停滞しました.その後の変化は,やや山体の収縮を示す変動となっているものの,15日より前の状態と比べると依然として膨張が維持されており,浅部に貫入したマグマがその場所に留まっていることを意味します.

【コメント】積算地震エネルギー放出量109 Jは大正噴火の前駆地震の積算地震エネルギー放出量1014 Jに比べて桁違いに小さいです.

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図10.地盤変動源推定結果と変動ベクトル(垂水960722固定)の比較.

図10は図6に示したGNSS観測による水平地盤変動をデータとして,地下の変動源の推定結果を示したものです.茶色の四角の領域が推定された変動源の位置を表し,黒矢印と赤矢印がそれぞれ観測値と計算値を表します.観測データは,北北東−南南西走向で東南東に傾斜した板状の変動源が開くこと(矩形開口断層)によって,良く説明され,貫入したマグマの体積変化量は.2.1×106 m3であり,その上端は海抜下約0.6kmで昭和火口のやや東に位置すると推定されます.

表1.地盤変動源パラメータ(矩形開口断層)一覧

X Y Depth Dip Strike Length Width Open dV
0.4 km 0.2 km 0.6 km 72° N32°E 0.5 km 1.0 km 4.24 m 2.1×106 m3

座標系原点は南岳火口かつ海抜0.XYは矩形断層上端中心.Depthは矩形断層上端の深さ.

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図11.水準測量路線図.黒三角は南岳,白三角は昭和火口の位置を示す.

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図12.地盤上下変動(2014年11月〜2015年8月:赤三角),S.17基準.1年当たりの変動率でプロット.(a)桜島一周路線の一部,(b)ハルタ山路線の一部.参考のため,2007年10−11月〜2013年11月(黒丸),1996年10月〜2007年10月-11月(灰色の四角)の期間の平均的な変動率もプロット.

図11と12は,水準測量によって計測された桜島島内の地盤上下変動のデータを示しています.今回と前回(2014年11月)の測量結果を比較したのが図12の赤線ですが,桜島北部のS26,S27付近(図11参照)やハルタ山(S108)付近での隆起が見られます.なお,今回の測量は,活動が活発化した8月16日以降に行われており,8月22日現在桜島東部の路線を測量中です.

(とりまとめ:火山活動研究センター准教授 中道治久)

  • 謝辞

地震予知研究センターの西村卓也准教授に掲載記事作成の補助をしていただきました.また,国土地理院電子基準点観測データを使用しました.記して感謝します.